学会・研修
2025年6月19日から22日まで、iMas (International Minimal Access Surgery) Dubai 2025会長のDevassy教授から招請講演の依頼があり、ドバイ、アラブ首長国連邦(UAE)に行ってきました。ドバイに行くのは今回が初めてでしたが、近年世界一の高さを誇るブルジュ・ハリファや世界最大の人工島で椰子の形で有名なパーム・ジュメイラなどが続々と建造されたので、それらを訪れるのも楽しみでした。
iMas は昨年招請講演を行ったESGA(ヨーロッパ婦人科内視鏡学会)の中東の分科会のような位置づけで、ドイツのDe Wilde教授を始めとして数多くの医師がヨーロッパから参集しており、アジアからはLee 教授(台湾)、Chen教授(シンガポール)など4名が招待されていました。
今回の講演内容は腹腔鏡下仙骨腟固定術の歴史と現況、将来展望についてでした。腹腔鏡下仙骨腟固定術は骨盤臓器脱に対する先進的手術で、私達が日本で初めて施行し、保険化やロボット支援下手術に発展してきました。丁度二つ前の演題が骨盤臓器脱の手術に関するバルト3国のエストニアからの発表で、仙骨腟固定術の位置づけの国による違いや発表における国民性が感じられ、とても興味深かったです。
ドバイはアラブ首長国連邦の7つの首長国のひとつで、世襲の首長による絶対君主制の国家です。この地域の歴史は古く、紀元前からペルシア、イスラム帝国、オスマン帝国の支配を受け、国教はイスラム教です。19世紀にはイギリスの保護下におかれていましたが、1950年代より石油が相次いで発見され、1973年にUAEが結成されました。
ドバイの人口は330万ほどで、ドバイ人は1割に過ぎず、ほとんどがインドやイラン,フィリピンを始め世界各国から来た外国人からなる多国籍国家です。今の繁栄をもたらしたのは首長のおかげと国民は思っているようで、政党などはない上に犯罪も少なく、絶対君主制がうまく機能しているとても安全な国です。砂漠地帯ですが、海水から生成された水がふんだんにあるため、水道水も安全で街は緑が多く清潔です。法人税や所得税がなく、現地住民の雇用義務などがないために外資が進出しやすくなっています。
さて、ドバイというと皆様どんなイメージを持たれていますでしょうか?
恐らく多くの方と同様、私は桁違いなオイルマネーで成金的にビルやホテルをこれ見よがしに建造していった街というイメージを持っていました。しかし、そのイメージは訪問してみて全く覆されました。
ドバイは1830年代の建国時には真珠貝の養殖などで生計をたてる貧しい国でした。それが1959年の石油の出現で一変したのはアブダビやカタールなどの中東国家と変わりません。ですが、ドバイは実は石油埋蔵量はUAEの2%程度といわれ、いずれ枯渇すると考えられています。そこで、首長はいち早く石油依存の経済から、金融、貿易、観光を主産業に切り替えました。そして、オイルマネーに頼らない街造りを志向していく事、そして人間は意思の力でなんでも実現させていけるんだということを世界に示し、ドバイを世界でも唯一無二の場所として観光客や投資家達を引きつけることをミッションとしていきました。
その強い意思の力を具現化させたものが、近年世界一の高さ(830m、因みにスカイツリーは634m)を誇るブルジュ・ハリファやパーム・ジュメイラ、ドバイモールなのです。この他にも、世界一の観覧車、世界一高いインフィニティプール、世界最大の額縁など、ギネスに載っているものが300近くあるそうです。これらが首長の強い指導力のもと、意思の力で何でも実現できるということを示すというミッションで建造されているのです。
実際、ブルジュ・ハリファやパーム・ジュメイラの展望台入り口には“We do not wait for things to happen, rather we make them happen.”などの首長の熱い檄文が掲げられてあり、ドバイの街造りの理念を示す強いメッセージを感じ取ることができました。展望台からの眺めはまさに圧倒的! ニューヨーク、上海、シンガポールとも共通しますが、それらをある意味上回る迫力でした。
ドバイの魅力は近未来的な建造物だけではありません。車で1時間半ほど内陸に向かうと、そこには気温が50度に達する灼熱のリワ砂漠(アラビア砂漠の一部)が広がります。リワ砂漠は海岸の砂地であるドバイ市街とは異なり、赤茶色でサラサラな砂からなり、風でできた美しい風紋や砂丘が見渡す限り続きます。そこでランドクルーザーのタイヤの空気を減らして砂丘を走り回るワイルドなツアーに参加しました。轍もないような砂丘を一気に駆け下りたり登ったりと、過去に感じたことのない強烈なG(重力加速度)で、車には転倒や衝突に備えてロールバーが完備してあるなど、なかなかできない経験でした。
その後ラクダ乗りを体験しましたが、これが想像以上に上下動し、乗り心地は決して良くありません。改めて砂漠の厳しい環境を体感できました。夕方からはさすがに涼しくなり、砂漠の中に造られたキャンプでドバイ風BBQや異国情緒たっぷりなベリーダンスを楽しむことができました。
このように、今回はUAE、ドバイという地勢的にも文化的にも初体験の地で学会に参加しましたが、とても刺激的で強く印象に残りました。皆様も是非ドバイを訪問され、非日常的で圧倒される建造物や砂漠を体感することで、ドバイの人々からの国造りのメッセージを感じ取って頂ければと思います。